なるほどさっきのおしまいの喜劇役者に肖た人はたった一人異教徒席に座って腕を組んだり髪を掻きむしったりいかにも仰山なのでみんなはとうとうひどく笑いました。
「あの男の煩悶なら一体何だかわからないですな。」陳氏が云いました。
ところがとうとうその人は立ちあがりました。そして壇にのぼりました。
「諸君、私は誤っていた。私は迷っていたのです。私は今日からビジテリアンになります。いや私は前からビジテリアンだったような気がします。どうもさっきまちがえて異教徒席に座りそのためにあんな反対演説をしたらしいのです。諸君許したまえ。且つ私考えるに本日異教徒席に座った方はみんな私のように席をちがえたのだろうと思う。どうもそうらしい。その証拠には今はみんな信者席に座っている。どうです、前異教徒諸氏そうでしょう。」
私の愕いたことは神学博士をはじめみんな一ぺんに立ちあがって
「そうです。」と答えたことです。
「そうでしょう。して見ると私はいよいよ本心に立ち帰らなければならない。私は或はご承知でしょう、ニュウヨウク座のヒルガードです。今日は私はこのお祭を賑やかにする為に祭司次長から頼まれて一つしばいをやったのです。このわれわれのやった大しばいについて不愉快なお方はどうか祭司次長にその攻撃の矢を向けて下さい。私はごく気の弱い一信者ですから。」
ヒルガードは一礼して脱兎のように壇を下りただ一つあいた席にぴたっと座ってしまいました。
「やられたな、すっかりやられた。」陳氏は笑いころげ哄笑歓呼拍手は祭場も破れるばかりでした。けれども私はあんまりこのあっけなさにぼんやりしてしまいました。あんまりぼんやりしましたので愉快なビジテリアン大祭の幻想はもうこわれました。どうかあとの所はみなさんで活動写真のおしまいのありふれた舞踏か何かを使ってご勝手にご完成をねがうしだいであります。
引用:青空文庫
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